水色金魚 2

 「藤本くんって本当、モテるのね。カッコイのは認めるけど」
 「アイツね、一人に絞らないのは、トラウマがあるの」
 「トラウマ?」
 「トラウマっていうか、プライドって言うかさ。アイツね、中2の時すげー好きな女の子がいたの」
 「あ、3人とも同じ中学なんだよね」
 「腐れ縁ってヤツだよね。アイツ、やっぱり中学の時から女の子には人気があってさ。ちなみに公平が好きだった子も恭介の事が好きだったんだけど」
 「うるせーよ」
 「でね、恭介、その大好きな女の子にそれとなく告白したのよ。そしたら、自分の友達が恭介の事を好きだから今の話はなかった事にしてくれ。自分も 今の事は誰にも言わないからって」
 「恭介、落ち込んでたよな、あの頃」
 「確かそれからだよな?アイツが誰か特定の女の子の事を好きだって言わなくなったの」
 「うん。恭介は自分がモテる事を自慢するようなヤツじゃないけど、フラれてかなりショックだったんだよな」
 「3人って、本当、仲がいいんだね。そういうのを分かり合えるなんて」
 「安田さんも今日から仲良しだよ。な、公平?」
 「あ、ああ」
 お待たせ、と恭介が戻ってきた。
 「あのさ、急で悪いんだけど、今度の土曜に海に行かない?」
 「今度の土曜って明後日だろ?!」
 「そう。明後日なら車で行けるし」
 「車?藤本くってそういう彼女もいるんだ?」
 「ま、いろいろ。で、みなさんのご都合は?」
 「私は大丈夫だけど」
 「オレも」
 「あとは桃ちゃんだけか」
 「オレの都合も聞け!」
 「お前は大丈夫だろ?ところで、何の話してたの?」
 「福田尚子ちゃん」
 「お前、古傷をえぐってくれるねぇ。どう、綾ちゃん可哀想で泣きそうになったでしょ?」
 「ちょっと意外な過去だった」
 「オレ、福田さんの事すげー好きだったんだよね。人の嫌がるような事も黙って率先してやるような子でさ。でも、あの返事も福田さんらしいなって、後々非常に納得したけど」
 「でもさ、その福田さん、藤本くんの事をどう思ってたんだろうね」
 僕たちは3人で顔を見合わせてしまった。
 「安田さん、どういう意味?」
 「だって、自分の友達が藤本くんを好きだからってのが彼女の返事でしょ?彼女、自分の気持ちを言ってないじゃない」
 「オレたち・・・・今の今までそんな事、気が付かなかったよな」
 「そう言われればそうだって感じ」
 「今更いいさ。4年も前の話だぜ?」
 「藤本くんってちゃんと人を見てるんだね。かわいいとか、明るいとかそれだけじゃなくて」
 「綾ちゃん、もっと褒めて、褒めて」
 調子に乗るなと、恭介はヒデにポテトを投げられていた。
 学校の事、家の事、他愛もないフツーの話に4人で笑い、また明日、図書館でと僕たちは家に帰った。


 今日も朝からうんざりするほど暑い。海に行くにはもってこいの日だ。
 8時半に駅前に集合。
 海に行く話を親にした時、反対されるのは覚悟だったのに、1日くらい息抜きがあってもいいとやけにすんなりOKサインをもらってしまった。
親も受験生には、少し気遣ってくれるらしい。
 恭介を待つ間、友達もいなくて少し小さくなっている桃ちゃんに彼女はいろいろ話しかけていた。
 彼女はいつもそう。いつも誰かを気遣って、それを相手に悟らせないようにする。僕の目に彼女はそんな風に映っていた。
 ごめんね、10分の遅刻です、と恭介が助手席から降りてきた。運転席から降りてきたのは、長めの髪にゆるくパーマをかけたキレイなお姉さんだった。
 「初めまして、山下です。今日はよろしくね」
 「こちらこそ、よろしくお願いします」
 「さ、乗って乗って。あ、この車、チビ持ち兄貴から借りたヤツだから禁煙ね。それだけは、よろしく」
 恭介が助手席に乗り、3列シートの真ん中に彼女と桃ちゃん、後ろに僕とヒデが乗った。
 「さて、出発しようか」
 車がスタートし、楽しい1日が始まった。

 海に着いたのは10時を過ぎた頃だった。
 「ここ、知る人ぞ知るの穴場なんだけどな。思ったより人が多いわ」
 「土曜だし、知る人ぞしるなんて、ねーさんみたいにみんな思ってるんだよ」
 「でも、通ってきた所より人が少ないし、お姉さんありがとうって、私思ってますよ」
 「いい子ね、綾ちゃん。イイ女になるわよ」
 「本当ですか?」
 「うん、私が保証する」
 「ねーさん、若人を騙すのはやめなさい」
 「あー藤本くん、どういう意味?」
 「いやいやいや。さ、着替えよう。先にヤローどもが来るまで着替えちゃっていいね?それとも一緒に着替える?」
 「ばーか」
 泳ぐというような海ではなかったから、6人で子供のようにはしゃいで遊んでいた。楽しい。頭の中はそれだけだった。そのクセ、彼女の水着姿にはドキドキしていた。
 早めの昼食を、と男3人で買いに行き、ビーチパラソルの下で休んでいる彼女たちを驚かそうとそっと近づくと彼女たちの話が聞こえてきた。
 「お嬢様、何かお悩み事でも?」
 「え?!」
 「目一杯楽しんでるのはわかるけど、時々、視線が下に落ちてるわよ」
 「やだなぁお姉さん、何でもお見通し?」
 「年増女をなめるんじゃないわよぉ。悩みなさい。それが若さってモンよ」
 「あはは。悩み事は何?って訊かないトコがお姉さんらしくて好き。ね、変な事訊いてもいい?」
 「どうぞ。答える保証はないけど」
 「お姉さんは・・・・藤本くんと本気?それとも・・・・」
 「どう見える?」
 「わかんない。仲がいいのはわかるけど、お姉さんから見たら私たちなんて、背伸びばっかりしてる子供でしょ?気持ちも考え方も大人な人にはどうなのかなって思って。男の方が 年上ならバランスが取れるだろうけど、女って同じ年でも精神年齢は男より上だって言うでしょ?」
 「そうね。恭介は6月で18になった。私は8月で25。いくら女の免疫があるって言っても、恭介はやっぱり18なんだなって思う事がよくある。私以外の女ともそれなりのお付き合いが あるのも知ってる。恭介の目に私がどう映るのか、その本音は恭介にしかわからない。高校生よりは羽振りのいい年上の女、それだけかもしれないし。・・・・恭介はルックスもそこそこよくて、 優しくてかわいい所があるけど、まだ子供のクセに本音はなかなか言わないちょっと女にだらしないヤツ。でも、私の目には一人の男として映ってる。私は情けないくらい本気よ」
 「お姉さん・・・・かわいくて、カッコイイ!」
 「そう?良い所だけ見ていられる付き合いなんて、こっちもそうしなきゃならないから疲れて長続きしない。相手の良い所、悪い所、イヤな所、ズルイ所、自分がその人に対して想う事を 全て同じラインに並べて、そして改めて自分がどう想うのか客観的に眺めてみるの」
 「やっぱり大人だなぁ」
 「自分の事を客観的に見るって難しくないですか?」
 「ん?桃ちゃん、彼氏いる?」
 「え?ま、一応・・・・」
 「彼の事、好き?」
 「う・・・・うん」
 「まぁ、はにかんじゃって、かわいい。頭の中で客観的になるのは難しいから、紙に書いてごらん。彼のいい所とイヤな所を10コずつ。どんな些細な事でもいいし、独断と偏見でいいから必ず10コ。 簡単そうに見えるけど、そうでもないのよ。ちゃんと相手を見てないと書けないんだから」
 「へぇ、帰ったらやってみよう。で、お姉さんが客観的に出した答えはぁ?」
 「ん?私は・・・・恭介に惚れてる。うふふ」
 「お姉さん、かわいい。ホント、かわいくてかっこよくて、イイ女って感じ」
 「私を誰だと思ってるのよ?綾ちゃんも桃ちゃんもいっぱい恋しなさい。大好きな人といっぱい笑って、時にはみっともない自分をさらけだして。結果、それが泣く事で終わったとしても、その時の自分を 出し切れたなら、その次は少し失敗を減らせる。いっぱい笑って、いっぱい泣いて、そして見た目だけじゃないホントのイイ女になるのよ」
 「お姉さんに想われて、藤本くんは幸せ者だな」
 「そうだよ」
 「ふ、藤本くん?!いつから?!」
 
 
 
 
 
                                  
 
 
 
 
 
 

back            next            Clearblue U