Believe you 21

 月曜の夜までの実家天国。地元の友達に帰ってきたと連絡をすると早速飲み会となり、午前様で帰宅し昼まで熟睡。そして、母の用意してくれた食事を食べ、犬の散歩。 ダラダラと食べる、飲む、寝るだけの生活だった。
 慎はいつものように毎日メールを入れてくれていた。
 「真由、もう一人暮らしはやめて帰ってきたら?家にいた方が楽でしょ?」
 「やだよ。仕事辞めたくないモン。ここから通勤なんて、毎朝耐えられない」
 「仕事じゃなくて男だろ?オ・ト・コ」
 「うるさいよ」
 母と私の会話に良文が口を挟んできた。余計な事を。
 「そういう人がいるんじゃ仕方ないわね」
 母はチラッと私を見てお茶をすすった。私ももう何の抵抗もせずにお茶を飲んだ。
 「そう言えば、貴之の結婚はどうなったの?」
 「まだはっきりとは。ただ、結婚を考えてる子がいるからって。でも、貴が結婚してここに住むなら真由は戻れないね」
 「親にそういう事を言うって事は近々って事でしょ?ま、誰かサンとちがって貴之はチャラチャラしてないからいるでも結婚できるね」
 「オレはまだ大学生ですから。人の心配より自分の心配でもしたら?あっという間だぜ」
 「アンタって本当にかわいくないよね。アンタこそ、捨てられないように努力してくださいよ」
 「オレは大丈夫。彼女の前ではいい子ですから」
 「いい子ぉ?」
 「良文の彼女は3つ上のOLさんなんだって。始めて連れてきた時、後ろ姿しか見なかったから真由が帰って来たのかと思った」
 「真由と一緒にすんなよ」
 「アンタ相当、惚れ込んでるね」
 「ああ、そうだよ」
 「あっさり言ってくれちゃって。お母さん、夕飯7時くらいに食べられる?」
 「6時頃に食べられるようにするから。女の子が夜一人歩きなんて物騒でしょ。早めに食べて帰りなさい」
 夕飯ができるまで良文とダラダラ過ごし、ご飯が出来たと声がかかると同時に父がゴルフから帰ってきた。帰るなら持って行けと参加賞のお菓子をもらい、夕飯を食べた。
 母は何も言わなかったけれど、私の好きな物ばかりが並んでいた。そんな気遣いが嬉しくておかわりを2杯もしてみんなにびっくりされてしまった。
 じゃ、またねと玄関で靴を履いていると良文も出掛けるようだった。
 「乗り換えの駅まで送っていってやるよ」
 散々人に悪態ついてるクセに。
 車の中では<貴之の結婚話になった。
 「貴さ、寮だから結婚したら家に戻るのかな。ヤダなぁ」
 「どうして?別にいいじゃない」
 「ヤダよ。貴だけじゃなく嫁さんもだぜ。オレ、まだ学生だし、家出る気ないもん。居づらいだろ?」
 「貴のお嫁さんも同じだろうね。小舅付きなんて。最初から同居なのかな」
 「さぁな。貴がずっと同居しないなら、オレがあの家をもらおうかと思ってるんだけど」
 「何、勝手な事言ってるの。それは貴と仲良く相談してください」
 「はい、到着っと」
 「ありがと。じゃ、気を付けてね」
 「おう、真由もな。じゃあな」
 根は悪人じゃないけど、って感じかな。昔は、お姉ちゃん、お姉ちゃんっていつもくっついてきてたのに。
 駅の本屋で本を買い、時刻表を見ながら今の時間を確かめる。水色の文字盤が私の白いコートによく映えていた。
 定刻通りに到着した電車に乗り慎にこれから帰るとメールを入れ、私は買ったばかりの本を読み始めた。

 月曜が休日だったせいか、あっという間に金曜になった。今日も4人でランチ。
 「この前さ、4人でカラオケに行こうって言ってたじゃない?あれ、今日じゃダメ?」
 「今日?いいけど、急だね」
 「昨日・・・木村とケンカして。まだむかついてるから、憂さ晴らしをしたいな、と」
 「ケンカ?」
 「津川さんと仲が良すぎる、津川さんの前ではかわいいふりしてる、だって」
 「単なるヤキモチじゃない。年下のやんちゃだと思えば?」
 「最初はテキトーに流してたけど、だんだん、どうせオレは美樹より年下だから、どうせ津川さんみたいに仕事できないからってグチグチ言い出してきて。 それでも我慢してたけど、もう頭に来ちゃって、いい加減してっって」
 「中川さんの事が好きな分だけ、コンプレックスができちゃうんだね」
 「私もそれを全部流せるほど大人じゃないから。普段は同じ職場の先輩、後輩みたいな所があるから、一生懸命に背伸びしてるのね。そんな必要ないのにって 今までは黙ってたけど、あんな風に年の事とかグチグチ言われるともういいやって思えてくる」
 「ケンカなんてみんなするもんだし。今日、明日くらいは少し時間をあけてお互いに落ち着くのを待てば、美樹?」
 「黒田さんもケンカするの?」
 「最近はないけど、何度もしたよ」
 「意外だなぁ」
 「そう?大分前だけどね、彼、会社の女の子に恋愛相談を受けたらしいのね。で、仕事帰りに飲みながら話をきいたり、とか。それは別にいいんだけど、その子の気持ちがだんだん彼の方に向いてきたみたいで。 その時は私は何も知らなかったけど、電話の態度が明らかにおかしいの。休みの日に呼び出して問いつめたら、ただ相談にのってただけでそれ以上は何も悪い事はしてないって言い張るから、その子には彼女はいないって言ってあるんじゃないの? って言ったら黙っちゃって。ちょっとトイレって席外して、そのまま帰ってきちゃった。それから3日間、電話もメールも無視してたら、4日目取引先から直帰できたからって会社の前に立ってたわ」
 「そりゃ、ちょっと感動だね」
 「木村ももう少し大人になってくれればいいのに」
 「私、カラオケOKよ。前原さんたちはどうする?」
 「うん、行く。美幸は当然行くよね?」
 「楽しい事から私を外さないでぇ」
 なるべく安いカラオケやを探して、4人で3時間も歌って騒いでいた。楽しくて、慎の事を少しも思い出さなかったと電車の中で気がついた。
 午後、只今移動中と慎からメールが入り、横浜に着いたらまたメールするとあったのに。
 彼も友達もどっちも大事。でも、今日は女友達の勝ち。
 これから中華街で食事だよ、という2時間以上前の慎のメールを見て私は思った。

 試合開始の20分程前に、私、中川さん、美幸、テルくんは会場に着いた。周りには、××くんファイト、○○さんLOVEなどの大きな応援用の手書きの紙を持った若い女の子の集団があちこちにいる。
 「満員御礼って感じではないのね」
 「実業団バレーなんて、こんな感じよ。一昔前のバレーブームならいざ知らず。うちの母親がママさんバレーやってて、私もバレー部だったから1,2度見に来た事があるけど、こんなもんよ。決勝戦でもないし。 今日は土曜の午後だからまだ人が来てる方じゃない?中学生も来れる時間だし」
 「美樹ちゃんはバレー部でどこやってたの?」
 テルくんは会って早々に中川さんを美樹ちゃんと呼び、もう友達になっていた。
 「一応、中学ではエースアタッカー」
 「どうして高校でも続けなかったの?もったいなーい」
 私と美幸が声を揃えて言った。
 「高校生って、中学と比べたら何か大人っていうか開放感があって自由じゃない?部活より遊んだり、バイトとかしたいなって思ってたけどバレーにも未練はあったのね。入部を決めた子たちは、すぐに練習に参加しててさ、 一度見てから決めようかと体育館に行ったわけよ。で、そこでショック受けちゃって」
 「ショック?」
 「当然先輩たちのレベルは上だけど、同じ1年の子でもみんな私より上なのよ。確かに私の中学はそれほど強いチームじゃなかったけど私がエースだったのは上手いからじゃなくて、背が高い。それだけの理由だったって、 その時初めてわかって。私はとんだお山の大将だったのよ。自分は中学のエースだった、人より上手いんだって勘違いしてて。そこできっぱりバレーはやめたの。根性無しよ」
 「でも、人の実力を素直に認められた分、お山の大将から抜け出せたんじゃないの?」
 「そうだといいけどね」
 「話は変わるんだけど、私、さっきからあそこの集団が気になってるんだけど」
 美幸はちょうど向かい側の席の女の子たちを目で指した。彼女たちの手には、慎Loveと手書きで書いてある大きな紙を持っていた。
 「がんばれ、とかファイトじゃなくてどうして、Loveなのよ?どう見ても中学生でしょ?年増女をなめるんじゃないわよ」
 「何でお前が怒るんだ?怒るなら真由ちゃんだろ?」
 「私?怒るより、本当にこういうのってあるんだ、と驚愕アンド感動よ」
 「そろそろ始まるよ」
 選手たちがコートに顔を出すと女の子たちのかん高い声が飛んだ。
 写真でしか見たことのない、ユニフォーム姿の慎がそこにいる。みんなが知ってる私の知らない慎。
 美幸たちが慎の名前を呼んでいるのに、胸の鼓動が体全体で鳴っているようで私は慎をただ見つめる事しか出来なかった。

back            next            believe you