海のうさぎ森の魚 2/2
「足の痛みもよくなっただろう?さあ、お帰り。来たときのように真っ直ぐ行くけば、大きな大きなかしの木がある。その木の一番太い枝の方に行くんだよ。間違えるんじゃないよ」
 「・・・薬をください!」
 「お前はバカかい?はさみでしっぽを切るんだよ。私は本気だよ。食事に付き合ってくれたお礼に仲間のいる場所を教えてやった。それで十分だろ?」
 「僕は仲間じゃなくて、あの銀色の魚と一緒にいたいんです。しっぽはあげます。だから、薬をください。作ってくれたんでしょ?!」
 「ああ、できてるよ。私はウソは嫌いだからね。本当にいいんだね?昨日の薬はつけてあげるけど、足の傷とは比べ物にならないほど痛いよ。それでいいんだね?」
 「はい」
 魔女はぴかぴかに光るはさみを持ってきて、うさぎのしっぽを切り落としました。
 今までに感じたこともない痛さで、うさぎは飛び上がりそうになりました。薬をつけてもらってもまだまだ、まだまだ痛いのです。
 「海へ着いたらその薬を全部飲むんだ。苦いけど一滴も残しちゃいけないよ。そうすれば、ずっと海の中で生きていける」
 うさぎは食事と薬のお礼を行ってうれしそうに帰って行きました。そして、いつもの海辺に着くと薬を一滴も残さずに飲み、遠くに月の映る海へ笑顔で入って行きました。


 「ひゅひゅひゅっ。そろそろ来る頃だと思ってたよ。あたしゃ海の中の事ならなーんでもお見通しなんだ。それにあたしに出来ない事なんてありゃしないんだよ。 お前がどうしてあたしの所に来たのかだってわかってるよ。”森で泳ぎたい”それがお前の望みだろ?違うかい?」
 銀色の魚はうなづきました。
 「ほぉら、当たりだ。あたしゃ、全部お見通しだって言っただろ。お前の望みだって叶えてやれるよ。あの人魚姫に足をくれてやったのだって、このあたしなんだからね。 あたしの声は素敵だろ?人魚姫は足と交換に声をくれたのさ。お前は何をくれるんだい?」
 銀色の魚は何も持たずに魔女の所へ来てしまったのです。
 「真珠でも採ってくるかい?でもね、真珠も珊瑚も飽きるほど持ってるからもういらないよ。おや?よく見るとお前はきれいなウロコをしてるねぇ。それで首飾りを作ったら、きれいだろうねぇ。ひゅっひゅっひゅっ」
 銀色の魚はうつむいてしまいました。そして、決心して魔女を見上げました。
 「そうかい、あたしにウロコをくれるんだねぇ。いい子だよ、お前は。でも、ウロコをはがすのはとんでもなく痛いよ。首飾りを作るんだから、1枚や2枚じゃ済まないよ。帰るなら今のうちだ。どうする?本当にいいのかい?」
 銀色の魚は力強くうなづきました。
 1枚、そしてまた1枚とウロコをはがされるのは、本当にとんでもない痛さでした。
 でも、あの時の「ずっと一緒にいれたらいいのに」という、うさぎの言葉を胸に銀色の魚は痛みを我慢しました。
 「さて、これで間に合うだろう。じゃ、約束通り森を泳げるようにしてあげるよ。あたしは、いい魔女じゃないけど約束は守る事にしてるんだ」
 そう言って魔女は奥から薬を持ってきて、銀色の魚の体に塗りました。
 「浅いところまで泳いでいって、おもいきり飛び上がるんだ。そうすればそのまま森を泳いでいられるさ」
 銀色の魚は急いでうさぎといつも一緒にいた浅瀬へ泳ぎました。そして、おもいきり飛び上がりました。宙に浮く銀色の魚は月の光に照らされてきらきらと輝いていました。
 きらきらと輝いたその小さな光はうれしそうに森の中へ消えて行きました。



 うさぎは銀色の魚が森の中へ行った事を知りません。
 銀色の魚もうさぎが海の中へ行った事を知りません。
 うさぎと銀色の魚は、ずっとずっと今もお互いを探し続けているのです。
 もし、もしもあなたが海でうさぎに出会ったら、もしも森で銀色の魚に出会ったら、
「もういいんだよ」とそっと抱きしめてあげてください。



                          fin

 
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