キリンの首が長くなったわけ1/2 |
月がまだ豊かだった頃のお話です。 おじいちゃんと男の子がいました。 おじいちゃんは男の子に沢山の事を教えてくれました。花の事、空の事、ここが月という星だと言う事、夜になって見える青くきれいな星が地球と言う事。 でも、たくさんの話をしてくれたおじいちゃんはもういません。男の子はひとりぼっちになってしまったのです。 ある日 男の子は川へ行きました。おじいちゃんとよく魚を捕った大きな川でした。その川は「星の川」と呼ばれていました。男の子は川辺に座っておじいちゃんの事を思い出して淋しくて悲しくて泣いていました。 コトン。 音がしたので後ろを見ると見たことのない動物がいました。 「君はだぁれ?」 「ボクはキリン・・・だと思う」 「どうして?」 「4つ向こうの山の湖で会った白い鳥さんがボクの事をそう呼んだから」 「どこから来たの?」 「わからない」 「これからどこかへ行くの?」 「・・・わからない。ボクはずっと一人だったから、どこへ行っていいのかわからないんだ。一人は淋しいね」 「ひとりぼっちだなんてボクと一緒だね。君がいいならボクと一緒にいようよ」 「いいの?」 「うん。二人でいればきっと淋しくないよ。ボクは君と仲良くなれると思うんだ。ボクの名前はね、ルウって言うんだよ」 そして、ルウとキリンはとても仲良しになりました。どこへ行くのも、何をするのも一緒。夜 は1つの毛布で一緒に寝ます。 ルウはおじいちゃんに教えてもらったたくさんの事をキリンに話してあげました。キリンはいつも楽しそうに、時には不思議そうにルウの話を聞いていました。 雨が降って少し寒い夜、毛布が1つしかなくても二人でいればとてもあたたかいのです。明日もあさってもずっとずっと一緒、と指切りをするのが二人のおやすみの前の約束でした。 「君は銀色の石を見たことがある?」 「ないよ」 「じゃあ、明日あの川へ行こう。川から銀色の石を拾って君に見せてあげるよ」 「だめだよ」 「どうして?」 「銀色の石は見たいけど、昨日からずっと雨が降っているから、川は危ないよ」 「雨のあとの川は気を付けなさいっておじいちゃんが言ってた。でも、早く君に見せてあげたいんだ。とってもきれいなんだよ」 次の日はとてもいいお天気でした。でも、川の水は雨が降る前よりずっと増えていました。 「危ないからやめようよ。川の水が元に戻ってからにしようよ」 キリンは心配でした。 「大丈夫。ちゃんと気を付けるから。形のいい石を2つ拾って、穴を開けてヒモを通して首からかけよう。1つは君の、もう1つはボクのだよ。これからもずっと二人でいれますようにってお守りにするんだ」 ルウはきらきらしたやんちゃな笑顔で川に入って行きました。 腰をかがめて、探すと1つめの石はすぐに見つかりました。 「あったよ、ほら!」 ルウは手を上げて石をキリンに見せました。 「今日は1つだけにしようよ。あぶないよ」 「平気だよ。もう1つもすぐに見つかるよ。待ってて」 ルウは心配そうに見つめるキリンににっこり笑い、また銀色の石を探し始めました。 「ほらぁ、見つけたよ!だから、すぐに見つかるって言っただろ。雨のあとは上の方からたくさん流されてくるっておじいちゃんが言ってたんだ」 ルウは銀色の石を2つ、ポケットにしまうとばしゃばしゃと岸の方へ戻ってきました。 「気を付けて」 「うん、わかってる。あ、ここにも石がある」 ルウが3つめの石を拾おうとした時、川の流れに足を滑らせてしまいました。 「あぶないっ!」 キリンが叫んだ次の瞬間には、ルウの体は川の中に沈んでしまいました。 「ルウっ! ルウー!?」 ルウはどんどん流されて行きます。 「今、助けに行くよ!」 キリンはざぶざぶと川へ入って行きました。岸で見ているより川の流れはずっと重くて早いのです。 キリンはルウの名前を呼びながら、流されながらも一生懸命に泳ぎました。 どれくらい泳いで流されたのでしょうか。 キリンの目に流されてきた大きな木にルウがひっかかっているのが見えたのです。 「ルウ?大丈夫? ルウ、目を開けてよ!」 「・・・あ・・・キリン・・・ごめんね、ボク・・・」 「いいんだよ。ルウが大丈夫ならボクはそれでいいよ」 キリンはルウをのせて、最後の力をふりしぼって岸へ泳ぎました。 「もう、歩けるから下ろしていいよ。今度はボクがキリンをおんぶしてあげるよ」 二人は顔を見合わせてにっこり笑いました。 「キリンの言う通りだったね。今度からは雨のあとの川には入らないよ。ごめんね」 「ルウが助かってよかった。ルウがいなくなったら、ボクはまたひとりぼっちになっちゃうよ」 「ごめんね。ずっと一緒にいよう。もう心配をかけたりしないよ」 「うん。ずっと一緒。ずっとともだち・・・」 そう言うとキリンは力尽きて倒れ、また川に流されてしまいました。 「キリンっ!」 ルウがキリンを助けよう川の深みに戻ろうとすると、キリンはばしゃばしゃともがきながら叫びました。 「ルウ、だめ! 来ちゃダメーッ」 ルウはキリンを追いかけて岸を走りました。大きな石につまづいて何度転んでも、どんなに痛くてもキリンを追いかけました。 泣きながら、たくさん、どこまでも、何度もキリンの名前を呼びながら走ったのにキリンは見えなくなってしまいました。 それでもルウはキリンの名前を呼びながらずっと岸を走って行きました。 |