ちーちゃんとく−ちゃん 3/3
「千尋、それも連れて行くの?」
「そうよ、当たり前じゃない。くーちゃんと私はもう長い付き合いなのよ。今更、おいていけるわけないでしょ」
「そうねぇ。くーちゃんを買ってあげたのって・・・3歳の誕生日だったっけ。あれから、もう23年も経ったのね。早いわね」
「嫌な事や落ち込むような事があっても、くーちゃんを抱っこしてると不思議と明日はがんばろうって思えたのよね。 くーちゃんは、私のお守りなの。だから、これからも一緒。それともお母さん、私だと思ってくーちゃんを大事にしてくれる?」
「別に近々死ぬわけじゃないでしょ?もし、千尋がお母さんより先に死んだら形見としてもらっておくわ」
「いやね、縁起でもない。あさって嫁ぐ娘に言う言葉?信じられない」
そう、ちーちゃんはお嫁さんになるんだ。
ちーちゃんの部屋には、あさって式場という所に持って行く、真っ白なお姫様みたいなドレスが飾ってある。
ずっと昔、ボクがまだお店に並んでいた頃、女の子の人形やぬいぐるみたちが自分の洋服自慢をしてたっけ。
あの子たちのドレスよりちーちゃんのドレスの方がずっと素敵だ。
そう言えば、うさぎさんがちーちゃんみたいなドレスを着て、頭からフワフワのものをかぶってたな。
その隣には、ペンギンさんみたいな黒い服を着たうさぎさんもいた。
うさぎさんは「私の大事なパートナーなのよ」って言ってたっけ。
って事は、あの”ノブさん”っていう人もペンギンさんみたいな服を着るんだ。
ちーちゃんは時々、鏡の前で真っ白なドレスを体に当てて幸せそうに笑ってた。
ボクは、きっとそのドレスを着る事がすごく嬉しいんだろうなって思ってた。
鏡に映るちーちゃんの笑顔を見てるとボクまで嬉しくなってくる。
ちーちゃん、そのドレスとってもよく似合うよ。
お嫁さんになるって事はボクにはよくわからなかったけれど、ちーちゃんがここからいなくなっっちゃうって事 だけは何となくわかった。
ママは「おめでとう」って泣いてた。
ちーちゃんがいなくなるのに、どうして「おめでとう」なんだろうってボクには不思議だった。
でも、ちーちゃんはノブさんと幸せになるんだね。
それで「おめでとう」なんだってわかった時、ボクは嬉しかったけど少し困っちゃったよ。
だって、ちーちゃんと離れなきゃいけなくなるみたいだったから。
ちーちゃんがずっとボクを大事にしてくれたから、ボクはずっと幸せだった。
だから、今度はちーちゃんが幸せになる番だけど・・・
ボクはちーちゃんのいないこのおうちにいなきゃいけないって思ったら、淋しくなっちゃったんだ。
パパもママも好きだけど、ボクはちーちゃんが一番好きなんだ。
でも、ちーちゃんはボクを連れて行ってくれるって言った。
ちーちゃんがそう言ってくれた時、目がじわっとあったかくなって、ちーちゃんとママがぼやけて見えた。
あれは、一体何だったんだろう・・・?

 

「マサトシ、あれはどこだ?」
「ああ、さっきリョウが持ってたな。リョウ、ほら持って来て」
「これも入れるの?」
ちーちゃんの小さかったまーくんは大人になってパパになった。
ボクは、まーくんとまーくんの妹のしーちゃん、まーくんの子供のリョウくんとコウくんとも遊んだ。
「おばあちゃんの大事な友達なんだ。ずっと一緒がいいだろう」
「そうだね」
「くーちゃんは、おじいちゃんよりもおばあちゃんと付き合いが長いからな」
「おばあちゃん、3歳の誕生日に買ってもらったって言ってたよね?よく60年以上も大事できたよね」
「くーちゃんはおばあちゃんのお守りなんだよ。おじいちゃん、何度も聞かされたよ」
「そんな事も言ってたね。じゃ、最期の最期までおばあちゃんの事を守ってもらわなきゃね」
ちっちゃくて少し泣き虫だったちーちゃん。赤いランドセルをボクに自慢してたちーちゃん。
失恋して泣いてたちーちゃん。大人になったちーちゃん。お嫁さんになったちーちゃん。
ママになったちーちゃん。おばあちゃんになったちーちゃん。
そして・・・天国へ旅立つちーちゃん。
ボクは誰よりもちーちゃんの事を知ってるんだよ。
ちーちゃんの笑顔はずっとちーちゃんのままだって、みんな知ってる?
みんなの優しさのおかげでまたボクはちーちゃんと一緒にいられる事ができるよ。
本当にありがとう。
今度みんなに逢うのはずっと先の事だろうけど、それまでちゃんとちーちゃんの傍にいるよ。
だって、ボクはちーちゃんのお守りだもん。
ね、ちーちゃん・・・

 

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