ちーちゃんとく−ちゃん 1/3
「ママ、ちーちゃん、もう幼稚園に行かない・・・」
「どうしたの?」
「だってね、今日なっちゃんとゆうちゃんとねんどで遊んでたの。ちーちゃん、ねんどでくーちゃんを作ったのね」
「うん、それで?」
「そしたらね、ヒロくんとかーくんが来て、ぬいぐるみに名前付けるなんて、ヘンなのって言うの。なっちゃんがヘンじゃないよってヒロくんに言ったのに ヒロくん、ヘンだ、ヘンだって何回も言うの。ぬいぐるみは友達じゃなくてただのおもちゃだって。」
「そうか。ママはヘンだと思わないよ。だって、ちーちゃんとくーちゃんは仲良しだもんね。ヒロくんにもきっとお気に入りのおもちゃがあるけど、 名前を付けてないだけだよ」
「・・・やだ・・・。もう幼稚園に行かない・・・」
「泣かなくていいの。くーちゃんね、ちーちゃんがくーちゃんの事をいっぱい大事に思ってくれてすごく嬉しがってるよ」
「・・・うん」
「本当はね、内緒にしておこうと思ったんだけど・・・。今日ね、ママ、くーちゃんとお話したの」
「くーちゃん、しゃべれるの?」
「しゃべれるよ。ちーちゃん、今頃何してるのかなぁってママが言ったら、お友達と仲良くしてるんじゃないかなって」
「しゃべったの?」
「ううん。ママの心の中にくーちゃんの声が聞こえてきたの」
「心の中?」
「そう。くーちゃんは笑ってるちーちゃんが大好きなんだって」
「ママ、ウソ言ってない?」
「言ってないよ。だって、ママの心の中に聞こえてきたんだもん。ママもくーちゃんも笑ってるちーちゃんが大好きだから、 聞こえてきたのかもしれないね」
「ちーちゃんには聞こえないの?」
「ちーちゃんは、おままごとしてる時にくーちゃんにおいしい?ってよく訊いてるじゃない?くーちゃん、何も言わない?」
「・・・言わないよ」
「よぉく聞いてる?ちゃんとくーちゃんの事を考えて、くーちゃんが答えるまで待ってあげないと聞こえないよ」
「そうなの?」
「うん、そうだよ。でもね、くーちゃんとお話できるのは、ママとちーちゃんだけの秘密ね。誰にも言っちゃだめよ」
「うん、わかった」
ママ、すごいな。ボクの声が聞こえたんだ。
そうだよ、ちーちゃん。
いつも笑ってボクを抱っこしてくれるちーちゃんが大好きだよ。
ボク、ちーちゃんの所に来て本当によかったって思ってる。
明日も元気に行ってきますって幼稚園に行こうね。
ちーちゃんが帰ってくるまで、ちゃんとおうちでお留守番してるからね。

 

「ママ・・・どうしても幼稚園に行かなきゃだめ?」
「どうして?ヒロくん?」
「うん・・・」
「でもね、幼稚園に行ったらなっちゃんたちと遊べるよ。もしまた、ヒロくんにヘンって言われたら、大きい声で ヘンじゃないよ。大事なぬいぐるみだから、名前を付けてあげたんだよって教えてあげよう」
「・・・でも・・・」
「ちー、パパはもう行くぞぉ」
「ほら、パパが玄関で待ってるから。そんな顔してると、くーちゃんが心配するよ」
「うん。行ってきます」
「はい。いってらっしゃい」
くーちゃんの言う事なら何でもきくのね、とママはボクの鼻をちょんと押した。
「今日はお天気がいいから、くーちゃんも体、洗おうか。せっかくのホワイトベアなのに汚れてちゃ、ね。毛足が長いから、ちゃんと洗ってあげないと」
ありがとう、ママ。
「え?!くーちゃん・・・?そんなわけ、ないか。でも、今くーちゃんがありがとうって言ったような気がしちゃった。 ふふふ、くーちゃんは大事な家族だもんね。しゃべってもいいか」
ママはお掃除とお洗濯が終わると、ボクをお風呂に入れてくれた。
泡のお風呂は気持ちがいい。じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ・・・
でも、体のお水を飛ばすのに真っ暗な所に入れられてすごい勢いで回された時は、本当に目が回っちゃったよ。
今は、ちーちゃんの小さなイスを借りてベランダで日なたぼっこ。
ママにお風呂に入れてもらってさっぱりしたし、お日さまも風もすごく気持ちがいい。
ベランダから見える公園で、ちーちゃんよりちょっと小さい子供が3人遊んでいる。
ボクがここへ来た頃のちーちゃんくらいかなぁ。
ケーキを食べた後だったから、ちーちゃんに初めて抱っこしてもらった時、甘い匂いがしたっけ。
あ、3人でボールの取り合いになっちゃった。
ちーちゃん、今頃なにしてるのかなぁ。
お友達と仲良くしてるのかなぁ。
ヒロくんはどうしてちーちゃんにいじわるするんだろう?
空はこんなに青いんだもん、みんな仲良くすればいいのに。
公園の子供達はボールの取り合いをやめて、また3人で仲良く遊んでた。
大丈夫。きっとちーちゃんもみんなと仲良くしてるはず。

 

 

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