寄り添ひし 君がたもと の色写し  うつつ のことと思ひ出しなむ
  −私を抱きしめてくれた貴方の袂の色を目に焼き付けておきましょう
そうすれば、これは夢ではないと思い出しますから−

 

  君来むと 指折り数ふ長月の  欠けにし月ぞ 満ちにける
−貴方が来るだろう日を夜ごと指折り数えお待ちしておりました。
でも、満月を過ぎて欠けていた九月の月はまた満月になってしまいましたね−

 

  風吹きて 探す我に居ぬ君よ  髪の間に間に残る君が香
−風に乗って貴方の香がしたので必死になって貴方を探しました。
貴方の香は貴方がいたのではなく、私の髪に残っていたからなのですね−

 

  薄紅の春の花に我を見る ほほ染む我を君知らざらむ
−思い出すだけで薄紅色の桜のように頬を染めている私の事など
貴方はまるでご存じないのでしょうね−

 

  若竹の誓ひし契り忘れじを 君思ほゆことを願ふ我なり
−幼い頃に誓い合ったあの約束を貴方が覚えている事を私は願っております−

 

村雨むらさめに思ひ めし我が恋は 伝ふるよしなし けふの春雨
−貴女を想い始めたのは村雨の降る秋でした。
想いを伝える術がないまま、春雨の降る今日になってしまいした−

 

  叶ふなら 今ひとたびの逢瀬なり 恋に朽ちなむ我が身惜しまじ
−もう一度貴方に逢って抱かれたい。
それが叶うのなら、私の命など惜しくはありません−

 

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