恋文 1/1
   前 略

また大好きな桜の時期がやってきました。
庭の桜は今年も満開で、いつも夢見心地で眺めています。
花の命は短いと言いますが、桜ほどあっという間になくなってしまう花はないように思う、と私が言ったことを覚えていますか?
そんな私にあなたは笑って、朝顔の方が短命だよ、と言いました。
そして朝顔が好きだ、と教えてくれましたね。
あなたの言葉に納得した私ですが、朝顔の潔さより桜のはかなさの方が「花の命は短い」という言葉が似合うような気がします。
やはり、薄紅色の花びらを一枚一枚、風に飛ばしながら命を削っていくからなのでしょうか。
でも、朝顔も好きですよ。あなたが好きだと教えてくれてからは。
朝は空を見上げ、美しさを自慢するかのように咲く朝顔が夕方にはしぼんでくしゃくしゃになっているのを見ると、何だか自分の事を鏡で見ているような気になってしまいます。
私は朝顔のように綺麗ではありませんが。
今年も朝顔を蒔こうと思っています。
綺麗に咲いてくれるといいのですが。

それでは、また

              一条 和臣 様

                         室井 絹子



  前 略

春に蒔いた朝顔が今日咲きました。
二、三日前からそろそろかな、と思って楽しみにしていた所でした。
深い蒼色の朝顔です。とても綺麗です。
そういえば、あなたがよく似合うとほめてくれたあの浴衣。
あれは実は新しく仕立てた2枚目の浴衣なんですよ。
まさかあなたと夏祭りに行けるなんて夢にも思わなかったから。
一夏に2枚も浴衣なんていらないだろうと、母に叱られましたっけ。
お誘い頂いてから急いで朝顔の柄の反物を買って、夜通し針を動かしていました。
太鼓の音、小さな金魚、いつの間にかつないでいた手、夢のような時間でした。
来年の夏祭りには、また一緒に行きましょう。
今度は私からお誘いします。

              一条 和臣 様

                         室井 絹子



前 略

夜になると虫の音が響く季節になりました。
先日テレビで秋の夜長は読書をするのに一番だ、と言っていたので私も久々に本を読んでみようかと思い、昨日本屋へ行って来ました。
それほど大きな本屋ではなかったのですが、沢山の中から1,2冊選ぶのに一苦労しました。
聞いたこともないような人の本ばかりで。
結局、選んだのは昔読んだ与謝野晶子の「みだれ髪」でした。
前に読んでからかなり時間が経っているので、また違った読み方ができるかもしれませんね。
まだ1ページも読んでいませんが、ゆっくり読んでいこうと思っています。
本の中に出来合いの栞が挟んであったのですが、何となく興ざめしてしまうので色づいた桜の葉を栞にしようとさっき庭から拾ってきました。
読んでもいないのに栞の心配をするなんておかしいですね。
これを機にまた読書が趣味になれば、と思う今日この頃です。

              一条 和臣 様
 
                         室井 絹子




新年 明けましておめでとうございます

元旦の今日は雪が降っています。
元旦に雪だなんて、何年振りでしょうか?
雪が舞うのを見るのは好きですが、寒がりの私はやはり冬は苦手です。
初詣では何をお願いしたのですか?
私は、あなたとずっと一緒にいられますように、とお願いしたんですよ。
あなたが手を合わせるのを横目で盗み見ながら、私と同じ事をお願いしてくれればいいのに、と思っていました。
少し図々しかったですね。
笑って許してください。
今日はお正月なので久々に親戚一同が顔を合わせます。
にぎやかな事はいいのですが、飲み過ぎる輩もいるのであとが大変です。
みんなが無事に一年を過ごせますように。

              一条 和臣 様

                         室井 絹子

          * * *

「お義母さん、そろそろみんなが来ますよ」
「はい、今行きますよ」

「母さん、何してた?」
「和臣さん」
「またか」
「いいんじゃないの。手先を使ってるとボケの防止にもなるし。手塩にかけた孫が巣立って、お義父さんも先に逝っちゃって。本当にボケちゃうんじゃないかって思ったもの。最近は物忘れも前より多くなってるし」
「でもなぁ、架空の恋人”一条和臣”はなぁ。自分がバァさんだって事、忘れてるんじゃないか」
「架空の恋人じゃなくて、実は忘れられない昔の恋人だったりして」
「はぁ?」
「だって、何か書き物をし始めたのって確かお義父さんが死んでから、時々・・・そうね、月に一度は必ず書いてたわ。布団を干してあげようと部屋に行ったとき、しまい忘れたのを見つけたときはびっくりしたわ。いつの間に彼氏作ったんろうって」 「それはないだろう」
「だから、ああ、時々頭の中が若い頃に戻っちゃうんだって思ってたけど。そういうボケ方もあるらしいから。でも、なーんか空想にしちゃ現実味があるのよね。ほら、前に一度こっそり持ち出してあなたに見てもらったじゃない」
「相変わらず達筆だったな」
「そう!ボケた人があんなに字が上手くかけるかなと思って。内容もまとまってるし」
「あのな、物忘れが多くなったくらいでボケ老人扱いするなよ。確か来年一緒に祭りに行こうってやつだろ?ジジィとババァのデートか。ボケなきゃ何でもいいよ」
「まったく、自分の母親の事なのに」


 全部聞こえてますよ。手紙を持ち出したのだってもちろん知ってますしね。
 正月だからって昼間から調子に乗って飲んで、相変わらずばかな息子。悪い子じゃないけど、聡明さが遺伝しなかったのが本当に残念。
 ボケたふりも面倒になってきたし・・・そろそろそちらへ逝ってもいいですか、和臣さん? 
  
                           fin

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