川の字 1/1
 ヒドイ口論の後、TVをつけるとモノクロの恋愛映画がやっていた。画面の中と一緒で僕たちのまわりの空気も彩りがなかった。
 ヒロインが自分の気持ちに気づき、彼を追おうとすると彼女がつぶやいた。
 「やっぱり、好き・・・・か」
 初めて観る映画だったけれど、そんなことタイトルを見た時点でバレバレだろ?と僕は頭の中でつぶやいた。
 「好きなんだよね」
 また、彼女がつぶやいた。
 少しだけ映画に気を取られていた僕はそれが、「好きなんだよね。」なのか「好きなんだよね?」なのか聞き逃してしまった。
 答えようがなく、僕は映画に集中しているフリをした。


 彼女がトイレから戻ってくると僕の携帯がメールを受信した。

 ”さっきはごめん。でも、譲れない”

 彼女は何事もなかったように座っている。立ち上がる僕を見ようともしない。
 「ほら、早くしないと。いくらダンボールのフタが閉まっていても、そのネコどこかへ行っちゃうよ」
 1時間振りの彼女の笑顔。

 その日から僕たちのベッドには少しバランスの悪い「川」の字ができた。





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