彼女と彼 1/1 |
二つ年上の僕の彼女は、頭脳明晰・成績優秀・容姿端麗・眉目流麗、性格は日当良好といった感じ。でも、料理はちょっと苦手。 そんな彼女の仕事は弁護士。先輩に言われるがままに就職?した探偵兼何でも屋の僕とは大違い。自分でもフシギな組み合わせだと思う。 晴れた日曜の午後、窓際のソファで本を読んでいる彼女。 「何を読んでるの?」 「南方郵便機」 「サン=テグジュペリ?」 「うん」 また、本に目を落とす彼女。 僕は後ろから彼女に腕をまわす。 「好きだよ」 「うふふ。なぁに急に?」 彼女は本から目を上げずに笑って言う。 「何となく。言いたくなっただけ」 「ありがとう」 そう言って彼女は僕の腕を左手で軽く包む。 彼女に「好き」という言葉を伝えると、いつも”ありがとう”の返事が返ってくる。彼女が僕を好きでいてくれる事はちゃんと僕に伝わっているけれど、時々彼女からの「好き」という言葉が欲しくなる。 僕はまだ彼女より二年分大人になれていないのかもしれない。 来月の彼女の誕生日には、小さいけれどダイヤモンドをあげようと思う。 ピアスかネックレス。仕事の邪魔にならなくて、いつも身に付けてもらえる物。 今まで通りに仕事をしていけば、今度のクリスマスにはダイヤモンドの指輪が買えそうだ。白くて細い彼女の指にはダイヤモンドがよく似合うはず。 そんなに高い物ではないけれど、僕の精一杯。 指輪を贈ったら彼女は僕をおムコさんにしてくれるかなぁ。 * * * 二つ年下の私の彼はとても居心地がいい人。そして、いつも一所懸命,だけどすぐにムキになる人。 探偵兼何でも屋の彼の昨日の仕事は、木から降りられなくなった子ねこの救出。 子ねこを抱いてハシゴを降りていたら、子ねこは飼い主のおばあちゃんの胸にジャンプ。ねこちゃんを受け取るためにおばあちゃんはハシゴを支えていた手を放す。バランスを崩した彼は地面へ直行。 お詫びも兼ねておばあちゃんが筑前煮ときんぴらを持たせてくれた。事務所でみんなで食べてしまえばいいのに、”すごくおいしかったから”と私にも少しだけ持って帰ってきてくれた。 私の彼はそんな人。 彼は時々”何となく言いたかった”と言って「好き」と言ってくれる。 本当は「私も」と彼に抱きついて言いたいけれど、恥ずかしくて”ありがとう”としか言えない。こんな私だから、そのうち彼に愛想をつかされてしまったらどうしよう。 来月は私の誕生日。覚えてるかな? 毎年、誕生日とクリスマスにはプレゼントを欠かさない彼と私。 私は包みを開けるときのドキドキにいつになっても馴れない。そして、私のプレゼントを開けて「ありがとう」という彼の笑顔が私にとって最高のお返しだという事に彼はまだ気づいていない。 私には本当は欲しい物があるけれど、言えない。「無理」と言われたらショックだから。 でも、今度の誕生日は我慢するけどクリスマスには言ってみようかな。 ”私をお嫁さんにしてくれない?” fin |