ガールフレンド

 セールでなかなかいい買い物ができて気分もよかったし、今日は少し贅沢にとショッピングモールのエントランス近くのベーカリーへ向かった。
ここのパンはおいしいけど、わりといいお値段。お店の中は裕福そうな奥様方がパンを選んでいる。そんな中にいると何となく背筋が伸びて、少し優雅な気分になる。
 朝食用のパンと夜のおやつを買ってお店をでると、急に降りだした雨にエントランスは人込みができていた。
 その中に知っている顔があった。
 ・・・・絢ちゃん。
 同性から見ても美人な絢ちゃんは、少し濡れた髪が顔にかかって、なんだか色っぽく見える。
 右手に持ったハンカチで絢ちゃんは濡れた左腕を拭いている。私には気付いていない。
 もう帰るだけだし、絢ちゃんも帰るなら送ってあげようかな・・・・
 ふと、そう思ったけれど私は何も見なかったように人込みに背を向けて歩き出した。

 「ね、早苗の赤ちゃんを見に行くの今日にしない?」
 「行ってくれば?」
 「だから、一緒に行こうって言ってるの」
 「あ?オレ、今日飲み会だって」
 知ってる。中くんと富くんと絢ちゃんでしょ。
 「今日だったらさ、早苗、お母さんに赤ちゃんを預かってもらえるから夜出かけられるんだって」
 ウソ。前もって言ってくれればいつだっていいって、早苗は言ってた。
 「早苗ちゃんって、2,3回会ったくらいでよく知らないしさ。絢が戻って来てるから飲もうって話はしてあるよな?」
 「聞いてはいたけど・・・」
 「女同士で飲みに行った方が、いろんな話ができていいんじゃないの?」
 しょっちゅうメールでいろいろ話してるよ。
 私がおもしろくないような顔をしたのに俊は気付いたようだった。
 「夕方までならいいよ。7時に待ち合わせだから」
 「そんなに行きたいの、飲み会?中くんたちとはよく飲んでるじゃない?」
 「絢が帰って来てるんだって」
 ・・・・絢ちゃん。
 「なんでいつも絢ちゃんなの?私、綾ちゃんの事嫌いじゃないよ。でもどうして帰って来る度になの?」
 「帰って来たら飲もうってオレたちが誘ってるんだよ。絢はお前に気を遣って自分からは飲みに行こうとは言ってないよ。むしろ、お前も一緒に行こうって気にしてたよ。でも、行かないって言ったのはヒロだろ?」
 「そうだけど・・・・」
 キレイで気さくな絢ちゃんと俊たちは高校の時からの友達。私も俊の彼女だった頃から絢ちゃんを知ってる。一緒にいれば私が話題から外れないように、いつも気を遣ってくれた。
 「でもさ、もう私たち結婚したんだよ?いつまで絢ちゃんと友達なの?」
 「いつまで友達って・・・・ヒロ、お前いい加減にしろよ」
 普段、めったに怒らない俊がイラ立っている。それが私のイライラを増長させる。
 「友達って言ったってさ、綾ちゃんは女なんだよ。もしかして、みんなとバイバイしたあと2人で何かするつもり?」
 「どういう意味それ?何かってなに?友達は友達だろ?!男とか女とか関係ないんだよっ!今日のヒロ、最低だな。悪いけど、早苗ちゃんとこには1人で行って」
 そう言って、俊は部屋を出て行った。
 早苗の家には1人で出かけ、夕飯をご馳走になって10時頃に帰って来た。さっさとシャワーを浴びて、寝たふりをしていた。俊が帰って来たのは12時を過ぎてからだった。

 それが、昨日の話。
 起きてきた俊に、楽しかった?と訊くと楽しかったよと笑っていた。それが絢ちゃんと逢ったからだと思うと癪にさわる。二日酔いでダルイという俊をおいて、私は買い物に出た。
 せっかく気分がよかったのに、絢ちゃんを見かけてしまうなんて・・・・
 運転席でぼんやりと思う。
 やっぱり、声を掛ければよかったかな・・・・絢ちゃんが悪いわけじゃないんだし。
 でも、俊だってもう結婚したんだし断ってくれたっていいじゃない。
 俊と絢ちゃんがただの友達で変な関係じゃないってわかってる。キレイで気遣いのできる絢ちゃん。張り合っても勝てるとはあまり思えない。
 でも、友達だって言っても絢ちゃんは女。友達に男も女もないなんて、私にはそういう考えはわからない。
 私はもう俊の奥さんなんだし、年に1,2回会うだけの、それもみんなで会うだけの絢ちゃんに嫉妬するなんて自分でもバカみたいだと思う。
 絢ちゃんならきっと、旦那さんの女友達に嫉妬なんてしないんだろうと思うと、ますます自分が負けた気になる。
 私って、本当にイヤなヤツ・・・・
 やり場のない自己嫌悪とつまらない嫉妬と理解できない考え方。
 女友達、ガールフレンドか・・・・
 車の中は、後味の悪い溜息の余韻が漂っていた。
 
 
 
 
 
                                  
 
 
 
 
 
 

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